神戸家庭裁判所 昭和44年(少)1143号 決定 1969年4月12日
本人 K・TことK・M(昭二二・二・一生)
主文
少年に対して、当庁がなした昭和四四年三月二七日付審判不開始決定は、これを取消す。
本件を神戸地方検察庁検察官に送致する。
理由
(一) 本件送致事実の要旨は「K・T、昭和二四年四月一二日生」なる者が、昭和四四年三月○○日神戸市内の料理店で、○神○子に対して因縁をつけて数回殴打したというものであつて、右「K・T」なる者は、同日現行犯で逮捕され、神戸市兵庫警察署から神戸地方検察庁を通じて同月二六日当庁に身柄付送致され、同日当庁裁判官による観護措置の要否に関する質問を受けたが、直ちに身柄釈放され、現住所に帰住することとなり右事件は同月二七日当庁において審判不開始決定をもつて終結した。
(二) ところがその後、本件の捜査を担当した警察からの本件一件書類中の追加分である「暴行被疑者の偽名判明について」と題する書面および同書面添付の指紋照会回答書、および当庁における調査によれば、右「K・T」なる者の指紋が、同人の兄である「K・M」(昭和二二年二月一日生、本籍、宮崎県児湯郡○○町大字○○×××××番地)のものと一致したこと、および同人は過去において数回の犯罪歴を有し、現在も宮崎県高鍋警察署から傷害被疑者として指名手配中であるということが判明した。このことから本件送致にかかる暴行事件をおかした者は、真実はK・Mであるところを同人は自己の罪を免れるため捜査当局および当庁において、故意に弟「T」の名を語つていたものであることが明らかである。
(三) しかし、本件に関する審判不開始決定当時、本件をおかした者がK・Mであることが判明していれば、当然年齢超過として本件は少年法一九条二項により検察官送致になるべきところであるが、右のように本件は「K・T」がおかした非行事件として既に審判不開始をもつて終結している。そこで、このような場合にいかに取扱われるのが妥当であるかが問題となるが、現に本件暴行事件を犯し、現行犯人として逮捕され、捜査当局の取調べを受けて当庁に送致され、当庁における裁判官による観護措置の要否に関する質問を受けた人物、即ち本件に関し少年らしくふるまつた人物その者について当庁「昭和四四年少第一一四三号暴行保護事件」として立件されたものとして取扱い、調査の結果、その者の氏名年齢等の詐称の事実が判明したため、その者は、自称「K・T」(昭和二四年四月一二日生)であるが真実は「K・M」(昭和二二年二月一日生)であると認定するのが妥当であろう。そうであるならば、少年法二七条の二、一項の、保護処分の継続中、本人に対して審判権がなかつたことが判明した場合に、該保護処分を取消すべきであるという法意にかんがみ、保護処分決定についてさえこのような場合には取消し得るのであれば、審判不開始決定については、該決定にいわゆる一事不再理の効力があるか否かを論ずるまでもなく、なおさらこれを取消し得るものと解すべきであろう。
(四) よつて少年法二七条の二、一項、一九条二項により主文のとおり決定する。
(裁判官 穴沢成己)